夢枕獏の『陰陽師』がテレビドラマ化されたこともあり、安倍晴明と陰陽道に大衆的関心が集まっている。いったい陰陽道とは何だろうか。魔術、妖術のたぐいなのだろうか？ そして、美貌の陰陽師、安倍晴明とは本当は何者だったのか？ そんな「陰陽師ワールド」のかっこうの入門書が、この本だ。陰陽道の発祥やその内容、日本へ伝来してからの歴史などが、マンガによって図解されていて、とてもわかりやすい。著者は中国史が専門分野のようだが、堅苦しい用語を使わない、平易でユーモアにあふれた文体が、とっつきにくい陰陽道の世界を身近に感じさせてくれている。 驚くのは、平安時代の政治と陰陽道との関係である。この時代の天皇家や藤原一族の権力争いはすさまじかった。敗者は勝者を呪詛し、勝者はその呪いにおびえた。そのために、陰陽師の活躍の場は一気に広がっていったのである。彼らは権力者に降りかかった呪いをはらうだけでなく、ストレスを取り除く役目を果たしていた。現代で言うなら一種のサイコセラピストか。 しかし、政治の実権が武士へ移るにともなって、陰陽師の役割は終わる。武士にとっては、怨霊よりも、武器を手にした人間こそが、最大の敵だからだ。そうして、権力者のみが利用していた陰陽道は、やがて民間へと伝承されていくようになる。 陰陽道というと、とかく安倍晴明のみがクローズアップされがちだが、著者は広く陰陽道の歴史とその魅力を説いている。巻末にある京都陰陽道行事の案内や、「カンタン陰陽占い」などを眺めていると、より一層陰陽道が親しく感じられるに違いない。（文月 達）
